ゾーンディフェンス攻略を考える。[2019年 第30回全日本大学アルティメット選手権大会]
ライブ配信実況3年目。批判から実感した”変化”。
全日本大学アルティメット選手権大会で実況・解説の仕事をさせてもらえるようになって3年目の今年。これまでは、ライブ配信を見てくれた僕の知人から褒めてもらえたり、愛のある冷やかしをもらったり、知っている人の声が画面から聴こえてきたことが純粋に楽しかった、そんな声を聞くことがほとんどだった。しかし、3年目の今年はいろいろな変化を感じる年になった。
“実況をしている男性が、あまりにも成蹊寄りのコメントをしているので、とても聞き苦しい”
変化に気づくきっかけとなったのは、知人が開設したアルティメット関連のWEBサイトに投稿されたこのコメントだった。不快な思いをさせてしまったことは素直に申し訳ないと思うのだが、実はこういった意見があることは少し嬉しいと感じてもいる。「公平な立場でものを言うべき人間」として認められてきたような気がするのだ。
最近は学生の選手を中心にいろんなことを質問されるようになった。
“あの試合のあの場面でのコメントはどういう意味だったのか”
“あのチームの敗因はなんだと思うか”
“学生選手権の楽しい見方は?”
“来年以降、本戦にコマを進めるためにはどうしたら良いのか”
選手としては二流三流の僕にこういった相談があるのはきっと、officialの看板のおかげだろうと思うわけだ。
なぜゾーンディフェンスを多用するチームが増えるのか。
そんな質問の中に、聞かれることが多く、気になったものがある。
“今年はゾーンディフェンスばかりで面白くなかったのでは?” というものだ。
初めて実況席に座った時から、ディフェンスは常にゾーンというチームを見てきたし、そんなチームの中には密かに僕が応援しているところもある。だから、決して面白くなかったとは思わない。だが、ゾーンディフェンスを多用するチームが増えたように感じたのは事実だ。
ではその傾向はなぜか。単刀直入に答えるならば「ゾーンなら点を取られない、または取られにくいから。もっと言えば、ゾーンディフェンスで勝てるから。」に他ならない。面白いことに今年は、ゾーンディフェンスでたくさんブレイクを重ねたチームが一転、ゾーンディフェンスをかけられて逆転負けをした試合を2試合ほど見た。ゾーンはまさに点のなる木である。社会人のチームでもゾーンディフェンスに泣くことがあるのだから一概には言えないが、これは「ゾーンの崩し方」を教わる機会がないことに起因する現象なのではないかと思う。
マンツーマンに対するオフェンスでは、現在のところバーティカルスタックが主流だ。これは僕が開催するナイトアルティメットのピックアップゲームでもある程度共通言語となっていて、何も言わなくたってみなコートの中心に1列に並び、自分こそレシーバーだという選手が真っ先に動き出す。それくらいどの選手も似たようなセオリーを心得ている。
しかしゾーンになるとどうだろうか。それまで華麗なパス回しでマンツーマンのディフェンスをくぐり抜けてきたチームも、ピタッと足が止まり、パスの出しどころに困り、ときには別のスポーツになってしまったような顔をすることがある。ゾーンディフェンスもチームよって十人十色なのだから、攻めあぐねることもあって当然だ。しかしきっと、よりどころとなる基本的な考え方や攻め方があるかどうかは、その後ゾーンディフェンス1つで負けてしまうかどうかを大きく分けるポイントになるはずだ。
いかにしてゾーンを崩すか。ゾーン攻略のイロハ。
ではどうしたらいいのか。指導者がいるチームが恵まれた環境であるというのがまだまだ現状だろう。困ったときに頼れる指導者がおらず、ゾーンディフェンスを仕掛けてくる相手に苦しんでいるという悩みを持ったチームはまず、自分たちで教科書を作ってみるのがいいのではないだろうか。実際に本にしろと言っているのではなく、指針となる考え方を、自己流でいいから決めてみてはどうかということだ。これまでの経験を振り返ってみたり、動画を研究してみたり、ディフェンスの立場になって考えてみたりすると、理想は(たぶん)このディスクの動きこのスペースの使い方・このスローというのが見えてくるかもしれない。
たとえば。
なぜ、ディスクを”横”に動かすのか。サイドラインに近づくと、パスを出せるスペースは減っていくのに。
カップの中へ入っていくことに意味はあるのか。そこにはすでにディフェンスがいるのに。
僕にも、この質問に答えられる自信は全くない。しかし、チームメイトとの間だけでも、その答えをもっているかどうかはきっと大きな違いだ。こんな条件が揃ったときは横へ、そうでないときは中へ、そして前へ。それが正解かどうかは後で考えればいい。わけもわからず点を取られるよりはずっといいだろう。
僕は、まだまだ発展中のこのスポーツにおいて、確かなセオリーなんてものはきっとまだ無いのだろうとも思っている。もしそうならば、その場で座り込んでしまうより、方角くらいは目星をつけて歩き出してみよう。新しい発見もあるかもしれない。これだからアルテはやめられない。
蛇足「学生選手権の楽しい観戦方法」
そうそう、“学生選手権の楽しい観戦方法”の1つは、こんな風に、試合を見ながら思ったことを誰かと議論してみることだと思う。ここ3年、アルティメットファンの皆さんが、僕が好き勝手言ったことに対して反響をくれることもあって、実況席で見る試合はどれもこれも面白いと感じるようになった。
いつもいつも会場に足を運んで誰かと観戦できるわけじゃ無いんだという人は、ライブ配信を僕と、そして僕の尊敬するメディアチームのコメンテーター達と共に楽しんで欲しい。そしていつか、一緒に「アルティメットの教科書」を出版しよう。
Flying Disc Times ライター
テクニカラーおよびクレイジ所属|アルティメットが好きです。時々、実況席に座っています。