SOTG世界一の「山葵」が実践する3つの心がけ
クラブチーム「山葵」
皆さんはクラブチーム「山葵」をご存知だろうか。「山葵」は、今年の7月28日~8月2日、カナダ・ウィニペグで開催されたWFDF2018世界マスターズアルティメットクラブ選手権(WMUCC2018)に向けて結成されたマスターミックスクラブチームで、同大会のマスターミックス部門のスピリット・オブ・ザ・ゲーム・アワード受賞、最終成績16位(全21チーム)という成績を収めた。「山葵」を語るうえで欠かせないのは、「スピリット・オブ・ザ・ゲーム(SOTG)」への理解と実践である。
(WMUCC2018に出場した全チームのSOTGスコアは大会HP参照)
スピリット・オブ・ザ・ゲーム・アワードを受賞したということもありトータルスコアが注目されがちだが、「山葵」のSOTGスコアの特徴は、各項目のスコアが総じて2.50を上回っている点である。例えば、WMUCC2018に出場した他の日本チームのトータルスコアを見てみると、どのチームも基準点である10.00点を上回っているが、項目別に見ると、「ルールの理解及び適切な使用」と「ファール及び身体接触」のスコアが他の項目に比べて低いという傾向がある。しかし、「山葵」のSOTGスコアは項目ごとに大きな差がなく、非常にバランスが取れている。このことから、「山葵」はSOTGを構成する5つの要素全てに対して基準以上の理解を持ち、試合でそれを実践していると言える。
かくしてWMUCC2018においてSOTGの面で非常に高い評価を獲得した「山葵」は、10月13日~14日に香港で開催されたPan-Asia Tournamentへ、トーナメント・ディレクターから招待を受ける形で出場することとなった。私はその香港遠征に密着し、「山葵」のスピリットの高さの秘密を探った。
1:SOTGに関する目標の共有
どのクラブチームも、重要な大会の前には欠かさずチームミーティングを行っているだろう。「山葵」でも大会の2週間前にチームミーティングが行われた。そのミーティングでは、スピリット・キャプテンから以下のようなSOTGに関する目標が共有された。
◇ルールに関する取組
・身体接触は避ける
・得点からラインナップまでの時間を守る
・ターンオーバーからプレイの再開までの時間を守る
・ハンドサインを活用する
・オフサイドをしない
◇コミュニケーションに関する取組
・コート内外を問わず相手チーム1人1人と触れ合う
・あらゆる人への感謝、称賛の気持ちを忘れない
このほか、アジアで開催された大会に出場した経験のある選手からアジアを拠点としているクラブチームのSOTG面での特徴も共有され、適切と考えられるコールの基準やコミュニケーションの取り方についても話し合われるなど、順位や戦術に関する目標と同じ時間をかけてSOTGに関する話し合いが行われた。そして、このミーティングで共有された目標はしっかりと試合本番で実行に移されていた。
その2:SOTGスコアシステムの正しい活用
SOTGスコアシステムは、対戦したチームのSOTGを「1. ルールの理解及び適切な使用」「2.ファール及び身体接触」「3.フェアプレイ」「4. ポジティブな姿勢及びセルフマネジメント」「5.コミュニケーション」の5つの観点から評価する仕組みである。国内大会では2013年から運用されており、実際にこのシステムを使った経験がある人も多いだろう。
国内大会では、しばしばSOTGスコアシステムが誤って使用されることがある。例えば、チーム全員で話し合うことなくキャプテンの主観でスコアがつけられたり、「良い」と判断した項目に4点をつけたりといったケースが見受けられる。SOTGスコアは選手全員で話し合って決めるものであり、その時の基準点は「2点」である。WFDFが公表している資料「how-to-use-the-spirit-score-system」には、システムの使い方について主に以下のようなことが記されている。
- このシステムは各チームが良いスピリットを実践していることを前提として作られているため、各カテゴリーの基準値は「2点:良い」となる。
- 各試合では、通常の試合を比較対象として、それよりも良い/悪い/同じ程度であると判断し、準じたスコアを記入すること。
- 試合中、特に目立った点はなかったという場合は「2点」とすること。合計10点となるのは、通常の良いスピリットであったという意味。
「山葵」では、SOTGスコア記入例を選手全員が試合会場に持参し、試合後、長いときは20分近くかけてSOTGスコアについて話し合われていた。特に、意見が割れた時には個人個人がその根拠を説明し、一通り議論したうえで最終的な点数を決めるなど、対戦相手のスピリットを適切に評価しようとする姿勢がうかがえた。
その3:感謝と賞賛の気持ち
大会前のミーティングでも話し合われた通り、大会主催者や対戦相手など、出場した大会に関係する全ての人への感謝と賞賛を忘れないことを選手全員が心掛けていた。例えば、相手選手の良いプレイ、良いスピリットに対して声をかけたり握手を交わしたりしたほか、試合後にスピリットサークルを組んだ際には必ずキャプテンが対戦してくれたことへの感謝を述べていた。
もちろん、スピリットサークルでの印象はSOTGスコアの評価対象ではない。ただ「山葵」の選手は自然と賞賛や感謝の気持ちが前面に出ていたように見受けられた。高い評価を得るために行動するのではなく、SOTGの考え方がチームの根底にしっかりと根付いており、その考え方を自然と実践できることが「山葵」のスピリットの高さの象徴ではないだろうか。
今後に向けて
「山葵」のSOTGに対する姿勢は、チームとして良いスピリットを発揮するにはどうすればよいかを考えるヒントを与えてくれた。これから世界に出ていくチームにとっては大いに参考になるのではないだろうか。
また、今夏に行われた世界大会では、「山葵」の他にも数多くのクラブチームが良いスピリットを発揮していたと感じている。また、今秋に行われた国内大会でも、スピリット・キャプテンの配置やハンドサインの積極的な活用など、数多くのSOTGに関する新たな取組が見られた。
SOTGはアルティメットの核であり、SOTGがあるからこそアルティメットという競技が価値を持つ。この価値を高めていくのは競技関係者全員の役割である。2018年を「SOTG元年」として、アルティメットがさらに魅力的なスポーツになっていくことを願っている。
Flying Disc Times ライター
JFDA上級公認ゲームアドバイザー|WFDF国際ゲームアドバイザー日本人第1号|明治大学FREE FLYERS出身|CREWS所属|フライングディスク競技の核である「スピリット・オブ・ザ・ゲーム」と、その考えに沿って選手が「セルフジャッジ」を高い水準で実現するための方法について、日々研究と実践を繰り返しています。エビデンスに基づいた記事の執筆を心掛けます。