サッカーの活動における暴力根絶に向けて リスペクト〜美しいサッカーのために

※本記事は、公益財団法人日本サッカー協会(以下、「JFA」)の指導者向け広報誌「JFA TECHNICAL NEWS」にJFAリスペクト・フェアプレー委員長 松崎康弘氏が公開した記事「サッカーの活動における暴力根絶に向けて リスペクト〜美しいサッカーのために」を、許可を得て転載したものです。

なお、本記事に出てくる「日本フライングディスク協会の方」は、FDTライターも務める森山真稔のことで、フライングディスクの側からの審判制やセルフジャッジに関する意見交換を踏まえた考察は、以下の記事でご紹介しています。

 

※本ページ上部の画像はJFA提供。


 

サッカーの活動における暴力根絶に向けて リスペクト〜美しいサッカーのために

【報告者】松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー委員長)

Jリーグの2020シーズンが始まり、今シーズンからVAR(ビデオアシスタントレフェリー)が本格的に用いられている。サッカーの特長である流れを止めてしまう、また「人間がプレーして人間がジャッジする」というサッカー本来の考え方から遠く離れてしまうなどと否定的な意見が聞かれる。一方で、ピッチ上の4人の審判員では確認しにくい事象の判断を援助し、正しく質の高い判定を提供することで、サッカーの環境をより良いものにしているという考え方もある。国際サッカー連盟(FIFA)や世界のトップリーグでの相次ぐ採用もあり、もうVARなしに立ち戻ることはできないだろう。

サッカーが生まれたのは1863年。統一した競技規則でプレーしようとイギリス・ロンドンに集まった11クラブが、14条の規則を起草して協会(Association)を立ち上げた。サッカーという名称は、当時の英国で、単語の語尾に“er”を付けた愛称とすることが流行し、「Association Football」も「Assoccer」となり、その後「Soccer」と呼ばれるようになったのだという。

サッカーの最初の競技規則には、審判員についての記述はない。そもそもサッカーは紳士がプレーし、紳士は反則を犯すことがない、仮に試合中に問題が発生した場合は、両チームの選手が話し合いで解決すれば良いとされていた。

しかし、サッカーが進化するにつれて簡単に解決することができなくなり、問題解決のために両チームからアンパイアを1人ずつ出して、話し合いをすることとした。それでもそこで収まらず、ピッチの外にいる中立の立場の有識者に裁定をお願いすることになり、「レフェリー」が誕生する。その後、アンパイアは中立のラインズマン(副審)となり、レフェリーはピッチ内に入って自ら問題解決に当たることになった。当時のレフェリーが着ていたフロックコートの色が黒であったため、審判員の服装が黒をベースとするものになり、持っていた杖が副審の持つフラッグへと変わっていったと言われる。

VAR イメージ画像

出典:JFA|公益財団法人日本サッカー協会「【VARを知ろう】ここは知っておきたい!VARの基礎知識|JFA|公益財団法人日本サッカー協会」https://www.jfa.jp/special/news/00024523/

 

先日、日本フライングディスク協会の方からアルティメットの話を聞いた。アルティメットは7人制の競技で、フライングディスク(フリスビー)を落とさずにパスをして運び、得点を競うスポーツ。ディスクの飛行特性を操る技術や走力、持久力が必要とされることから「究極(アルティメット)」の名前が付けられ、フェアプレーを最も重要視したセルフジャッジ制を導入していることが大きな特徴だ。選手は競技者と審判員の二つの役割を果たし、選手同士で意見が相違した場合は、自分の意見と相手の意見を考慮し、事実に対して忠実に判断をするそうだ。初期のサッカーの紛争の解決方法と同じである。

もっとも、その実践はそう簡単ではなく、アメリカではプロ化に伴い、レフェリーを設置するようになってきたという。しかし、基本的な考え方は依然としてセルフジャッジにあり、競技の誕生以来変わらず、世界フライングディスク連盟もそれを貫き通す考えである。選手の中には不満を漏らす者もいるようだが、チームの中のフェアプレーを促進するスピリットキャプテンが、リスペクトを説くとともに、チームの“和”を図るのだそうだ。

 

サッカーも本来はそうありたい。選手も、審判員が自分と異なる考えを示せば不満を持つこともある。不満である表情をしたり、ちょっとしたアクションをとったりすることもあるだろう。それは自然なことだ。しかし、判定を委ねられた審判員の判断に、過度な異議を示すことは見苦しい。2019年のラグビーワールドカップ2019日本大会では選手のフェアな態度が称賛された。同じフットボールであるサッカーがなぜできないのかと言われているようだった。

サッカーの審判員は1試合で200〜300の判断を行うと言われ、その中にはPKや退場処分など難しい判定もある。判定をより正しく行うためにVARが導入された。しかし、仮にVARによる判定であっても、万人が100%納得する判定とはならないだろう。ましてやVARのない試合では、論議を呼ぶ判定はこれまでと変わらず起こるに違いない。どうであれ、競技規則をしっかりと理解・遵守し、VARによる判定であろうとなかろうと、潔く受け入れること(判定へのリスペクト)が必要だ。

サッカーの競技規則には、主審の決定について「決定は、主審が競技規則および『サッカー競技の精神』に従ってその能力の最大を尽くして下し、適切な措置をとるために、競技規則の枠組の範囲で与えられた裁量権を有する主審の見解に基づくものである」と書かれている。審判員はサッカーをリスペクトしつつ、最大限の努力をしてベストの判定を下すことが求められているのだ。そして、「競技規則の理念と精神」には、「『美しいサッカー』の美しさにとって、極めて重要な基盤は『公平・公正さ』」とあり、「主審およびその他全ての審判員の決定は、常にリスペクトされなければならない」としている。

 

 


※本記事は、公益財団法人日本サッカー協会(以下、「JFA」)の広報誌「JFA TECHNICAL NEWS」にJFAリスペクト・フェアプレー委員長 松崎康弘氏が公開した記事「サッカーの活動における暴力根絶に向けて リスペクト〜美しいサッカーのために」を、許可を得て転載したものです。

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