他競技関係者とフェアプレイについて考える ~「フェアプレイ会議2018」参加報告~
2018年12月18日、公益財団法人日本スポーツ協会主催の「フェアプレイ会議2018」が岸記念体育会館で開催された。この会議は、昨今のスポーツ団体のガバナンス低下や指導者による暴力事件などを受けて、将来のスポーツ界を担うユース世代の競技関係者が「スポーツにとってフェアプレイとは何か?」を考えること目的としている。
各出席者が専門としている競技は、野球、サッカー、テニス、水泳、馬術、柔道、ハンドボール、ゴルフなど多岐にわたり、私はアルティメットの競技関係者として出席した。会議は以下のプログラムに沿って、講義やグループワークが行われた。当日の様子はすでにメディアによって報道されているため、そちらを参照されたい。(PRTIMES記事 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000037753.html)
この記事では、当日の講義の内容やグループワークでの議論の内容を紹介するとともに、フェアプレイを語る上でアルティメットがいかに先進的な競技であるかをお伝えしたい。
フェアプレイの起源
フェアプレイという考え方はどのようにして生まれたのか。それは19世紀まで遡る。当時、イギリスのパブリックスクールでは、厳しい校則に対する反発がいじめや暴力に発展していることが問題視されていた。この問題の解決策として、名門パブリックスクールの1つ「ラグビー校」の校長だったトマス・アーノルドはスポーツの有用性に着目し、学生たちに団体スポーツを行うことを奨励した。その後、試合で行うプレイはフェアでなければならないことから徐々にルールが整備されていった。これがフェアプレイの起源であるといわれている。
参考資料:溝畑寛治(2008)『ラグビー校のフットボール・ルールから「ラグビー精神」をみる』
フェアプレイを妨げているものは何か
グループワークの最初のテーマ、「フェアプレイを妨げているものは何か」では、私たちのグループは「内的要因と外的要因の2つに分類できるのではないか」という考えの下、フェアプレイを妨げている要因の分類を行った。(下図参照)
その後の話し合いで、私たちのグループは「その競技を始めた当初は主に外的要因によってフェアプレイが妨げられるケースが多く、競技年数が長くなり選手として成長してくると、外的要因よりも内的要因によってフェアプレイが妨げられるケースが多くなるのではないか」という結論に至った。例えば、競技を始めた当初は指導者や競技環境に左右される場面が多く、「勝利に固執した指導」などからフェアプレイを実践できなくなってしまうケースなどが考えられる。また、「周囲からの期待やプレッシャー」は外的要因にもなり得るが、それでもフェアプレイを実践できるような心の強い選手になることが理想的だという意見も出た。
フェアプレイの輪を広げるために何ができるか
グループワークの2番目のテーマ、「フェアプレイの輪を広げるために何ができるか」では、私たちのグループは、それぞれが専門とする競技の状況を踏まえつつ、フェアプレイを浸透させるのに効果的な方法について話し合い、「フェアではないプレイを許さない空気づくりが重要なのではないか」という結論に至った。空気づくりの方法については、フェアプレイが見られたチームや個人を表彰するなど、フェアプレイを讃える文化を定着させるなどの意見が出た。
フェアプレイ宣言
会議の終盤にはグループワークでの議論を踏まえて、出席者全員が個人、グループとして「フェアプレイ宣言」を行った。私たちのグループは、「競技の中核を担う世代に近づきつつある私たちが外的要因に負けることなく、自律性を持ってフェアプレイを推進していく」という思いを込めて、「自律」を宣言した。私は常々、フェアプレイに正解は1つしかないとは限らないからこそ、何が正解に近いかについて常に考えたり議論したりすることが重要であり、そこに費やした時間の分だけ良い答えが導かれると考えている。その考えの下、私は「“フェアプレイとは何か”を常に考え続ける」ことを宣言した。
アルティメットとフェアプレイ
私はこの会議を通じて、アルティメットがフェアプレイについて先進的な競技であることを強く感じた。例えば、「フェアプレイの輪を広げるために何ができるか」に関するグループワークでは、他のグループからフェアプレイの点数化と表彰制度を設けること、フェアプレイについて助言する第三者を置くことが提案されたが、前者は「スピリット・オブ・ザ・ゲームスコア」、後者は「ゲームアドバイザー」という形ですでにアルティメットの大会に導入されているのである。
このアルティメット独自の取り組みは、今後スポーツ界が向かおうとしている方向に合致していると私は考えている。スポーツ界から「アルティメット=フェアプレイについて先進的な競技」として認知される日はそう遠くないかもしれない。
Flying Disc Times ライター
JFDA上級公認ゲームアドバイザー|WFDF国際ゲームアドバイザー日本人第1号|明治大学FREE FLYERS出身|CREWS所属|フライングディスク競技の核である「スピリット・オブ・ザ・ゲーム」と、その考えに沿って選手が「セルフジャッジ」を高い水準で実現するための方法について、日々研究と実践を繰り返しています。エビデンスに基づいた記事の執筆を心掛けます。