選手だけではないアルティメットとの関わり方 〜手探りから確立していった「チームスタッフ」の仕事 練習・合宿編〜

■スタート編(前回の記事)はこちら↓


私の425日の夢は、スタートしてから半年以上が経ち、やっと軌道に乗りました。

2019WU24がドイツで開催されることが発表され、大会参加を目指し始めたのが2018年の5月。そして、正式にウィメン部門のチームスタッフとして日本代表チームに帯同することが決まったのは2019年2月13日のことでした。自身のSNSを通じて、日本語とドイツ語でこのことを報告したところ、多くの方が祝福してくれました。中でも特に喜んでくれていたのは、ドイツ留学時にホームステイでお世話になったホストファミリー。「来年の夏、今度はアルティメットの世界大会で絶対にドイツへ戻ってくるからね!」と泣きながらさよならした半年後、ドイツ行きの切符を無事にゲットし、それを報告することができました。

しかし、チームスタッフとしての正式決定がゴールではありません。ここから本大会に向けて、正式な「チームスタッフ」として参加する国内での代表強化合宿が始まっていきました。しかも、アルティメットという競技において、チームスタッフ・マネージャーという立場や仕事がまだがあまり確立されていません。代表チームと言えどもこれは同じで、私も手探り状態でチームスタッフとしての仕事を始めました。

今の時期、大学チームは新入生を勧誘することに必死でしょう。そして、プレイヤーだけでなく新たにマネージャーを受け入れたいチームや、現在マネージャーが所属してくれているけれど役割分担が難しい…と悩んでいるチームもあるのではないでしょうか。そこで今回は、そんな皆さんの力に少しでもなればと思い、代表チームでの私の関わり方や私なりのマネージャー業を紹介します。

 

手探りで取り組み始めた「チームスタッフ」としての仕事

代表メンバーが発表された翌週、早速第1回目の国内強化合宿が開催されました。開催地は福島県のJヴィレッジ。用意されていた大きな部屋には、選手、スタッフ一人一人へ国内活動着が準備されていました。初めて手にした日の丸のユニフォーム。背中と脚には「TEAM STAFF」の文字。ずっと憧れていた夢がついに始まったと自覚するとともに、「何か大きな決断をするときは、必ず何かを犠牲にしなければいけない。だから、頑張るんだよ」と送り出してくれた家族の言葉が頭に浮かびました。

本大会前の国内での活動期間、チームスタッフの仕事は多岐にわたります。とは言っても、「チームスタッフの仕事・役割はこれ」と決まったものはありません。アルティメットという競技において、チームスタッフ・マネージャーという立場や仕事がまだ確立されていないのは確かです。代表チームと言えどもこれは同じで、私も手探り状態でチームスタッフとしての仕事を始めました。国内での活動においては、特に「練習」「合宿」でチームスタッフが何をすべきかを考えて行動しました。

チームスタッフの仕事

代表チームのチームスタッフとしての仕事を、これまでの経験や代表チームの状況を踏まえて手探りで考えていきました。

練習・合宿中のチームスタッフの仕事

練習・合宿中のチームスタッフの役割は選手の体調管理、スケジュール全体のタイムキーパーと動画の撮影などが中心です。代表チームでは、これらは自分一人だけでは無く、監督、コーチ、トレーナー、チームスタッフの4人で常に連携を図っていました。

①選手の体調管理、メディカルチェック

選手の体調を管理するために私が行ったのは、選手の体調を把握するための簡単なアンケートでした。まずは朝一で選手全員にアンケートに答えてもらいます。私たちはこれを「メディカルチェック」と呼んでいました。トレーナーさんと一緒に作ったアンケートで、その日の身体的・精神的コンディションや睡眠時間、そして怪我やテーピングの有無などを選手・スタッフ間で共有することができます。アンケートの回答内容に応じて、状態が気になる選手を練習前にあらかじめ把握することで、トレーニングの運動強度や、怪我のリハビリの内容などを決める判断材料のひとつにしていました。

また、私は個人的にこのメディカルチェックを選手と会話をするきっかけの一つにしていました。というのも、私は毎回の合宿で必ず取り組むことを1つ決めていたことがありました。それは「練習が始まる前に選手全員と会話をすること」。

この目標を決めていたのには訳があります。マネージャーというポジションが確立されていないこの競技で、チームスタッフとの距離感が離れてしまうと選手に気を遣わせてしまうかもしれないと考えたからです。素直で優しい選手がそろったウィメン部門と言うこともあり、特にメンバー決定直後はみんなが距離感を伺っているようにも見えました。同世代で編成されているチームだからこそ、コミュニケーションは大事なことの1つだと考えた私は、練習前に全員と会話することを心がけましたし、練習後の体のケアを行う部屋に選手が集まっているときは、なるべく私も行くようにしてアルティメットとは関係ない話をしたり、悩みを聞いてみたり、意識的に取り組んでいきました。私はこういった「プレーと関係ない部分」がプレーに関わってくると思うのです。最初は「チームスタッフ」と「選手」の関係をもっと身近にするためにコミュニケーションをとっていましたが、強化合宿の回数を重ねるたびに、単純に選手一人ひとりに興味がわき、みんなのことを知ることができることが嬉しかったのを覚えています。

 

②タイムキーパー

代表活動において1泊2日の国内強化合宿が何度も実施されますが、「1泊2日」という時間はあっという間です。半年で10回弱の合宿を経て、世界大会へ臨むことになるのですが、1回の合宿でやることは盛りだくさんです。そんな合宿を少しでもスムーズに進められるように、合宿が始まる前にあらかじめその日のスケジュールを監督に組んでもらい、ビデオ撮影が必要な箇所や必要な備品をノートに書き留めました。

合宿中は腕時計とケータイの両方のストップウォッチやタイマーを駆使して時間を管理していました。大体の練習は時間通りには進みませんが、グラウンドの利用時間上、終わりの時間だけは決まっていたのでスケジュール管理は臨機応変さが求められると思います。メニューが終わるごとにスタッフでその後のメニューや所要時間を上手く帳尻合わせしていました。また、タイムキーパーとしての役割がチームスタッフの重要な仕事とは言え、私が試合動画の撮影をするために時間を細かく管理できないときなどは、選手たちにタイムキーパーを回してもらったり、トレーナーさんに手伝ってもらったりしていました。自分の役割を円滑に進めるために、一人で抱え込まずに協力してもらうのもチームスタッフの重要な能力かもしれません。

大会本番、試合を撮影している様子

大会本番、試合を撮影している様子。本番で想定される状況も考えながら、選手や他のスタッフとの役割分担を考えました。

 

③動画の撮影、編集、共有

チームやディビジョンによっては、スタッフではなく選手が練習や試合の動画の撮影を担当しているところも多く見受けられます。しかし、私がチームスタッフとして動画撮影を担当したのは単純に「時間があるから」です。動画撮影は単純に試合や練習の様子をカメラで撮影すればいいわけではなく、撮影した動画を編集し、みんなが見れるように共有することも必要です。そのためには練習後にパソコンを使って作業をする必要があります。こう言った撮影・編集・共有の作業を選手が担ったり、怪我をしている選手に任せたりするケースもあると思いますが、私は自分がやるべきだと考えました。

例えば、合宿中、選手は最初から最後まで体を動かしています。確かにプレーしていない時間や怪我でプレーできない時間に協力してもらうことも可能かもしれませんが。カメラやパソコンに触る時間があるなら、少しでも自分の体のケアに時間を回してほしいと思いました。スタッフであれば午前中ゲームの動画を撮影したら、食事中や午後のウォームアップの時間などスキマ時間で編集・共有の作業ができます。常にパソコンを持ち歩いて、撮影後はなるべくすぐに編集して、宿泊先に到着したらWi-Fiに繋がせてもらってすぐにYouTubeにアップロードしていました。その日の自分たちのプレーをすぐに確認することで、チームとしてのレベルアップにつながると思います。

 

④そのほかに心がけていたこと、取り組んだこと

体調管理や動画の他に、私自身がスタッフとして心がけていたことが3つあります。それは、

  • 礼を正す:爽やかな挨拶
  • 場を清める:ゴミ拾い
  • 時を守る:5分前行動

この3つです。この3つは高校時代、私が軟式野球部にマネージャーとして所属していたときの恩師の教えです。代表活動をしていると、同じ合宿場所に他のディビジョンのスタッフや、協会の方、グラウンドや宿泊場所の手配をになっていただいている京王観光さんなど、さまざまな人がいます。他にも、私たちの練習のために来ていただいた社会人チームの選手や、合宿地の地元の方などいろんな方が私たちのために尽力してくださいます。選手よりもいろんな人との関わりがあるポジションだからこそ、そういった人たちの助けがあって私たちが活動できていることに気づけました。だからこそ、当たり前のことは怠らない。練習前と練習後のゴミ拾いは選手を巻き込んでやるようなったら、チームの中でも当たり前の行動になりました。こう言った地道な行動は「応援されるチームになる」上で欠かせない行動目標だと改めて感じることができました。

そして、監督・コーチが私のために(実際には選手のため)用意してくれた時間がありました。それは、「ドイツ語講座」です。私は高校から第一外国語としてドイツ語を勉強していました。チームの中には初めての海外渡航の選手もいたので、少しでもドイツを好きになって帰ってほしいという個人的な思いもありました。毎合宿のスタート時の円陣でわたしのミニドイツ語講座を開きました。簡単な挨拶を中心に1フレーズ教え、夜のミーティングで復習をするときにみんなが一生懸命覚えようとノートにドイツ語を書いている姿をみてとてもうれしかったのを覚えています。監督・コーチの計らいで取り組むことができた「ドイツ語講座」ですが、一緒に大会に出場した選手たちは、今でも大会会場などで私と会うとドイツ語を使って話しかけてくれます。自分の得意を活かしてチームに貢献するのもチームスタッフとしての役割かもしれません。

 

まとめ

ここまで練習中の業務についてお伝えしましたが、最初にもお話ししたとおり、スタッフのやることはこれ!!!と決まってる訳ではありません。イメージとしては必要なことを必要なときにサポートするだけです。自分が選手として活動した経験があるから気づけるポイントも多くあります。先読みと臨機応変さがキーワードかもしれません。

ただ、このポジションで難しいのは「役割分担」です。私も苦手なところです。スタッフが「自分でやった方が早いな?効率がいいな?」と思っていることも、チームビルディングという観点では選手に振った方が良い業務もあります。U24ウィメンで私が選手に任せたのはドリンク作りです。「自分たちが飲むものだから」というのはもちろんですが、練習や試合中は、私自身が動画の撮影にかかりきりだったので、単純に難しかったというのもあります。また、動画を撮影しないときでも、本大会では自分が所属しているウィメン部門だけで無く、メン部門やミックス部門の動画撮影を担当することもありました。チームと別行動になることが予想されたため、最低でもドリンクは選手たちだけでできるようにお願いしました。この部分もある意味「先読み」かもしれませんね。常に練習を練習として行うのではなく、本番を見据えた練習であったことに間違いありません。それは、選手とスタッフが一緒の方向を向いていたからできていたことだと思います。

繰り返しになりますが、まだまだアルティメットという競技において、マネージャー・チームスタッフがやるべきことが明確に定義されているわけではありません。また、多くのチームには存在しない役割であり、現在マネージャーとして活動している人やこれから活動したい人、マネージャーをチームに入れたい人などは迷う部分も多いと思います。今回の記事がそういった方のお役に少しでも経てば嬉しいですし、もし一緒に考えられることがあればぜひ一緒に取り組めたらなと思います。

選手が管理してくれていたチームのドリンク

選手が管理してくれていたチームのドリンク。写真の日は選手たちが使用した後、宿舎で綺麗に揃えて置いてくれました。

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