選手だけではないアルティメットとの関わり方 〜チームスタッフとして世界大会に行くことになったきっかけ〜
425日。およそ14ヶ月。これは、ごく普通の大学生だった私に夢ができてから、その夢が叶うまでにかかった時間です。
2018年5月23日。大学へ向かう電車の中で、いつも通り何気なくスマホをみていた時に、私は夢を見つけました。そこにはドイツ語でこう書かれていました。
「WFDF vergibt U24 Ultimate-WM 2019 nach Heidelberg」
ーWFDF(世界フライングディスク協会)は2019年の24歳以下世界大会の開催地をドイツ・ハイデルベルクに決定
「この大会に参加したい!」
私はすぐにそう思いました。
私は高校時代、第一外国語がドイツ語というちょっと変わった高校に通っていました。そして大学でもドイツ語を専門的に勉強できる獨協大学外国語学部ドイツ語学科へ進み、アルティメットをする傍ら、ドイツ語にのめり込んでいきます。通学中にはいつも、勉強のためにSNSでドイツ語の記事を読むのが日課で、その何気ない日常のなかに飛び込んできたのがこの見出しでした。
こうして何気なく続けていた日課から見つけた大きな夢でしたが、今年7月に念願叶って、ドイツでの世界大会に参加することができました。しかし、私がこの大会に参加したのは選手としてではありませんでした。
どうやってこの大会に関わる?
記事を見つけたあと、まず思い浮かんだのは「どうやってこの大会に関わるのか」。そして、それぞれ可能かどうかは別として、当時の私の中にあった選択肢は4つでした。
①日本代表選手になる
②現地で大会運営のボランティアをする
③現地で言語ボランティアをする
④日本代表チームで通訳をする
まず一番わかりやすいのが「①日本代表選手になる」。日本代表選手になれば、もちろんこの大会に参加することができます。ただ一方で、「これだけは絶対に無理だ!!!実力も無ければ、ドイツへ行きたいなんて理由だけで代表になれるほど甘いものじゃ無いのは、WAFT!の先輩たちを見て知っている!」という気持ちもあり、私の選択肢の中から「①日本代表選手になる」は一瞬で除外されました。
では、そのほかの選択肢は、、、と考えると、これらの選択肢は自分のスキル的にも目指せると思いました。日本代表選手になるという無謀ともいえる挑戦と比較したせいもあって、「あれ?これは割と現実的なのではないか?」とすら思えました。
しかし、そう簡単にはいきません。開催地決定の記事を見つけた当時は、まだ大会ホームページや問い合わせ先が公開されておらず、ボランティアに関する情報が見つかりません。そこで私は、「大会ホームページができたら、問い合わせ欄にドイツ語でメッセージ送ってみよ~」と考えました。
しかし、最後の選択肢「④日本代表チームで通訳をする」については、思いついたはいいものの、そもそも日本代表チームに通訳が必要かどうか、通訳のポジションがあるのかどうかすら分かっていませんでした。「できたらいいな~」と考えていたくらいの淡い妄想だったのです。そして実際にこの妄想が現実的ではないことが、のちに判明してしまいます。
「日本代表チームの通訳」が現実的ではないと知る機会が訪れたのは、ハイデルベルク開催が決定して1ヶ月後のこと。私は、毎年6月にリソル生命の森で開催される関東新人アルティメット大会に運営スタッフとして携わっていて、そこに前回のU24代表経験者の方々をアルティメットのアドバイザーとしてお呼びしていました。その先輩たちから世界大会の話をお聞きすることができ、大会に対する期待は高まる一方。しかし同時に、通訳のポジションが無いことを知り落胆してしまったのです。しかし、その先輩の中に一人、日本代表ミックス部門のチームスタッフとしてパースへ行った方がいました。それを知った時。それがまさにチームスタッフを目指したきっかけでした。
さあ、何から始めよう?
「チームスタッフ」という言葉はあまり聞き慣れないかもしれません。日本のスポーツチームや部活では「マネージャー」という言い方が主流だと思いますし、役割はマネージャーとほぼ同じです。しかし、通常マネージャーであればチームが応募や勧誘をしていますが、当時の時点で日本代表がチームスタッフを募集するかどうかわからない状態でした。そこで私は、自分がチームスタッフになるためには以下のステップが必要だと考えました。
①大会会場や現地周辺について熟知する
②チームスタッフの経験を積む
③現地の知識とチームスタッフ経験がある状態で、日本代表チームに問い合わせる
①大会会場や現地周辺について熟知する
チームスタッフとして日本代表になろうと志してすぐ、私はドイツ・ドルトムントでの2ヶ月のインターンシップを控えていました。ホームステイをしながら、現地の企業で実際に働くという大学の留学プログラムの一つです。この2ヶ月の滞在に、インターンシップとは別の大きな目的が出来ました。それが現地調査です。
インターンシップが始まる前後に自分でドイツ観光の時間を作り、ドイツへ留学している友人に大会の会場であるハイデルベルクを案内してもらいました。主に観光地をメインにまわり、中央駅近くの飲食店やスーパーなど大会期間中に生活する上で必要そうな場所も見て回りました。日本とドイツの文化や習慣の違いで感じたことはメモに残し、食品や日用品も自分の目で見て確かめました。自分の肌で感じたことが一番わかりやすいと思ったので、価格や味はいろんなものを試しました。
また、留学中の友人の知り合いが、ハイデルベルク近くの地域でホッケーのブンデスリーガに所属してプレーしている日本人選手のことを知っていました。その方を紹介してもらい、運よく実際に会って相談に乗ってもらうことができました。ドイツでスポーツで滞在する難しさを聞いたり、おすすめの情報を教えてもらったりと、選手目線でもチームスタッフ目線でもわからないことを何から何まで。日本に帰国後も心配なことがあれば連絡を取って快く応えてくださいました。
②チームスタッフの経験を積む
ドイツでのインターン中に、さらに私はチームスタッフの経験を積む術がないか探りました。そして、自分の先輩を頼りに、マネージャーとして経験を積ませてもらえる社会人チームを探しました。そして、ドイツ滞在中で直接お会いできない上、ほとんど面識がないにもかかわらず、ありがたいことにある一つのチームが快く受け入れてくれたのです。それが、メン部門の社会人チームLOQUITOSです。
私は高校時代は軟式野球部でマネージャーとして所属していました。マネージャーがいない部活にマネージャーとして飛び込んだので、すでにマネージャーがいるかどうかはあまり気にしていませんでした。私がお世話になることになったLOQUITOSはマネージャーはおらず、高校の時と同様、マネージャーを確立させることからのスタートでした。アルティメットでのマネージャー業を確立させるために3年間毎日書き留めた野球ノートを本棚から引っ張り出し、野球部時代にやっていたマネージャーの仕事を思い出すことから始めました。普段の練習、練習試合、合宿、公式戦。シーンによって役割は様々です。これをアルティメットの競技性やチームに合わせて変えたりする必要があると考えました。
野球、サッカー、ラグビーなどのチームではマネージャーがいても不自然には思いません。では、アルティメットはというと、マネージャーが所属するチームはまだ少なく、見本となる対象が多くありません。幸い、私が所属している獨協WAFT!にはマネージャーが所属していたので、彼女の仕事を自分の高校時代と照らし合わせて、目標とするアルティメットのマネージャー像が確立されていきました。
③現地の知識とチームスタッフ経験がある状態で、日本代表チームに問い合わせる
LOQUITOSでの初めての公式戦であるチャンピオンズリーグを終え、チームでの信頼と仕事を少しずつ確立させ落ち着いてきた頃、待ちに待った代表選考会のHPがようやく公開されました。しかし、選手以外の志願者はフォームが無かったので、お問い合わせフォームに志望理由を送ることにしました。志望理由に挙げたのは、U24では代表として選出されることや、海外へ渡航するのが初めての選手が多くいると考えていたこと。そして、現地で生かせるドイツ語・ドイツ滞在経験とマネージャー経験を合わせて記しました。
すると、第1回選考会の1週間ほど前に日本フライングディスク協会の梅原さんから「選考会に参加してください」との連絡を頂きました。このとき、「やっと自分の目指していたスタートラインに立てる!」という安心感があったことを覚えています。
チームスタッフは必ず毎大会に帯同するわけではありません。そのため、選手の様な公募もなく、監督・コーチが必要と判断した場合に初めて、チームスタッフとして選考会に参加できます。そしてさらに、選考会で監督・コーチが「大会本番にもチームスタッフが必要だ」と判断した場合に大会に帯同することができるのです。私は「参加権を手に入れた!」という喜びを感じたと同時に、自分の夢に一歩近づいてワクワクしました。
そして、ついに、、、
チームスタッフとして第1回の選考会を終え、続く第2回選考会にも参加させていただけることになりました。選考会では、選手同様私も選考されます。選考されるにあたって、合宿全体のタイムキーパーや動画の撮影、選手の選考にかかわる書類の管理など、行った活動は多岐にわたっていました。
そして第2回選考会、1日目の夜。この夜の出来事は、今でも鮮明に覚えています。スタッフが宿泊していた宿舎でスタッフミーティングがあり、ウィメン部門のチームスタッフ選考を受けていた私とミックス部門のチームスタッフ選考を受けていた小山さん、そして各部門の監督・コーチ・協会事務局のスタッフの方々が大きな輪になって座っていました。スタッフミーティングで話し合われていたのは、現在行っている選考会や今後の合宿などに関わること。「私も選考を通ったら、この日程で合宿をこなしていくんだな。」などと考えながら意気込みたい気持ちもありましたが、まだ選考途中であるという現実から目を背けてはならないという気持ちも混在していました。
そしてミーティングの終盤、そろそろ話し合いも終わりかなと考えていたころ、協会の方から、「続いて、チームスタッフの選考について~」と話し合いのテーマが移ったのです。この一言が耳に入った瞬間、自然と背筋がピンっと伸びるような感覚になったことを今でも覚えています。さらに続いた言葉は、「小山さんと小峯さんの二人は採用でいいか」という内容。実のところ、嬉しさのあまりセリフを一言一句までは覚えていません。事務局の方の言葉を聞いて、ウィメン部門の監督・コーチ・トレーナーさんの方に目を向けると3人とも笑顔で私を見てうなずいてくれていました。その瞬間、ドイツでの現地調査やLOQUITOSでの役割を確立した時の苦悩などが一瞬でよみがえり、視界は涙でぼやけました。こうして半年間の準備期間がようやく幕を閉じ、正真正銘、日本代表のチームスタッフとしての第一歩を踏み出すことができたのです。
まとめ
こうしてチームスタッフとして大会に帯同できることが決まりましたが、決まってから本大会までの期間も、決して平坦な道のりだったわけではありません。選手と違って出場機会の増減や得点数などで自分の成長ややりがい、達成感が目に見えないからこその葛藤もありましたし、ドイツ語を話せること、ドイツ滞在経験があることは国内の活動ではなかなか意味を見いだせずにもがいていました。
それでも、周りの人の働きかけもあって自分が満足いく活動をすることが出来ました。国内での活動は実際に現地に行った際にとても自信になりましたし、ウィメン部門だけでなく全ディビジョンの力になれたかなと思います。
今回は書ききれませんでしたが、チームスタッフ決定から本大会に至るまで、そして本大会での苦労なども改めて記事としてお伝えできたらと思っています。
Flying Disc Times ライター
獨協大学WAFT! 出身 #8|Technicolorマネージャー・2019WU24ウィメン部門チームスタッフ|ディスクを追っかけたり、追っかける人たちをサポートしたり。フライングディスクと同じくらい、ドイツ・ドイツ語が好き!英語よりドイツ語喋ります。フリスビー投げるより、プレイヤーを支える側に興味あり!あらゆる視点からフライングディスクをお伝えします!