「苦しい時に軸になれる存在でありたい」稲村知子選手(2019AOUGC 日本代表ウィメン部門キャプテン)

2019年7月23日(火)〜27日(土)に中華人民共和国・上海で「WFDF2019アジア・オセアニアアルティメット&ガッツ選手権大会(以下、「AOUGC」)」が開催される。4年に1度開催されているこの大会は、世界アルティメット&ガッツ選手権大会(以下、「WUGC」)の前年開催となっており、日本代表チームの現在地を確かめる重要な大会だ。今大会、日本からはアルティメット3部門(メン部門・ウィメン部門・ミックス部門)とガッツ1部門(オープン部門)の出場が発表された(代表メンバーはこちら)。今回は、アルティメット・ウィメン部門にキャプテンとして出場する稲村知子選手に話を伺った。

稲村選手と私は初対面。それでも稲村選手は、過去の世界大会で感じた喜びや葛藤、そして今後の大会に向けての意気込みを赤裸々に語ってくださった。

 

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Profile

WFDF2019 アジア・オセアニアアルティメット&ガッツ選手権大会
日本代表 ウィメン部門 キャプテン

稲村 知子
Tomoko Inamura

1990年3月19日生まれ
大阪体育大学アルティメット部BOUHSEARS出身
壱(ウィメン部門)所属
右利き。ポジションはハンドラー

2012年、2016年にウィメン部門で日本代表として世界大会に出場。2012年は日本代表として金メダルを獲得した。また、2017年にはアルティメット日本代表としてワールドゲームズに出場。

 

稲村選手

日本代表として過去3度の世界大会を経験。2019年のAOUGCではウィメン部門キャプテンを務める。

 

Interview

「若手時代は毎回の練習についていくので必死」

―初めまして。今回はインタビューに応じてくださってありがとうございます。よろしくお願いします!
いえいえ、私なんかでよければ。よろしくお願いします。

 

―ありがとうございます。まずは、これまでの経験について聞かせていただきたいんですが、そもそもアルティメットを始めたきっかけはなんだったんですか?
アルティメットを始めたのは大学に入学したときで、高校まではバスケをやってたんよね。それで大学でもバスケをやろうかなって思ってたんやけど、大学のバスケ部のレベルが高いのと、雰囲気があまり好きじゃなかったのとでちょっと違うかなって思って。それで違うことを何か探していた時にアルティメットの勧誘を受けたって感じ。

勧誘では、アルティメットのダイブキャッチとかロングシュートとかのいいプレーばっかり映ってる動画を見せてもらって、それで面白そうやなって。

 

―いいプレーの動画見てしまうと、惹かれてしまいますよね(笑)。始めた当時から日本代表を目指していたんですか?
いや、まったく(笑)。そのときはまさか自分が日本代表になるなんて思っていなかったし、日本代表のキャプテンをやるなんてもちろん思いもしなかったかな。

 

―そうなんですね。そんな稲村さんが日本代表を意識し始めたきっかけはなんだったんですか?
大学時代、毎年夏に中京大学・日本体育大学・大阪体育大学の3チームで合宿をするのが恒例やったんやけど、大学4年の時の合宿に当時の日本代表の森監督と平井コーチが視察に来ていたんよね。その時に「来年の世界大会に向けて選考会があるから参加してみない?」って声をかけていただいたのがきっかけかな。正直そのときは、「自分はまだ学生やし、自分が代表になるなんて。でも声かけてもらったし行ってみるか」って気持ちやった。これが全ての始まりかな。

選考会では最初の頃はもう大恐縮(笑)。自分と同じように学生も結構参加していたけど、だからと言って緊張しなかったわけじゃなくって、いつも大会会場のいいコートで試合しているような大ベテランのすごい先輩方もたくさんいるから、恐縮したな。

それでも、選考を進んでいくにつれて、自分にもチャンスがあるかもって少し思い始めた。でも今振り返ると、若手時代は毎回の練習についていくので必死やったかな。レベル高いし、頭も使うし、毎回ヘトヘトになって帰ってた。

 

―学生時代に大学選手権で決勝に進出したりと、レベルが高いところで当時からプレーされていたにも関わらず、日本代表のレベルではきつかったんですね。それは体力的な部分ですか?それとも精神的なところですか?
精神的な部分が大きかったかな。もちろんトレーニングでの走る量とかもすごかったけど、頭を使ってプレーしないといけなかったり、精神的なプレッシャーが学生のレベルとは違ったりってのがきつかった。そういう意味では、今は考えるって面では余裕があって、当時とは違った感覚になってきているかなとも思う。学生の時はついていくので必死。言われたことを必死で体現する、求められていることを必死でやるって感覚。でも今は、言われたことをやるというよりも自分で考えながらやっていたり、チームとしてどうあるべきか、チームメイトにどう伝えるべきかを考えたりしているって感じかな。自分より下の世代も増えてきたし、後輩たちにどう発信していくべきかって考えたりする。

 

2012年 WUGC 稲村選手

2012年 日本で行われた世界大会に出場した稲村選手。

 

「2016年の世界大会後に2012年の金メダルの重みを実感した」

―アルティメットをやっていて、一番最初に本気になったというか、火がついたのっていつでしたか?
大学3年生のときかな。大学1、2年生の時ももちろん頑張ってたけど、1年生の時はなかなか試合に出られへんし、先輩の試合見て「すげー」って思いながら必死にサポート・フォローするので精一杯。2年3年と徐々に試合に出してもらえるようになって、だんだん熱が入ってきたかな。自分の中にはいつも「負けたくない」って気持ちがあって、それはたとえ先輩であろうが関係なく、試合に出してもらえるようになってから、どんどん「チームメイトに負けたくない、先輩であろうが負けたくない」ってなっていったかな。

それで、3年生になって、当時の自分の1つ上、当時の4年生は人数が多かったんやけど、やっぱり自分の中に負けたくないっていう精神があって、自分が試合に出たいと思ってずっとやってたかな。しかも、自分が大学3年の時に大学選手権での決勝を初めて経験することになって、それでさらに「決勝の舞台に立ちたい」っていう気持ちでさらに熱が入ったのを覚えてる。

 

―なるほど。3年生の時の決勝の結果はどうだったんですか?
負けてしまった。そこで負けて、次自分が4年生になる年に向けての想いも一層強くなったかな。結果的に4年生の時も決勝までいけたんやけど、3年、4年と連続で決勝で中京大学に負けてしまったけどね。学生の時は優勝を目指してやっていたから、結局自分が試合に出ているときに優勝できなくて、悔しい気持ちの方が強かったかな。

 

―そうだったんですね。逆にアルティメットをやっていてその後嬉しい想いをしたのはいつだったんですか?
2012年の世界大会で金メダルを取れたことかな。個人としては初の日本代表で、その大会で世界一になれた。正直、最初は自分が代表になれるなんて思っていなかったし、2012年のチームの中では若手としてついていくので必死やったけど、結果的に最後はオフェンスとして試合に使ってもらえて、しかも金メダルを取れて嬉しかった。

 

2012年 WUGC ウィメン部門 金メダル

2012年 アルティメット日本代表はウィメン部門で金メダルを獲得した。

 

―2016年にも世界大会に出場していますよね。その時はどうでしたか?
2016年の世界大会は、逆にアルティメットやってる中でも一番苦しかったかな。2012年の時はすごい先輩たちに囲まれて、必死に食らいついてやってたら結果的に試合に出れて、世界一にもなれた。もちろん嬉しかったけど、正直個人的な感覚としては「金メダル取れちゃった」って感じで、自分の力というよりも先輩方の力が大きかったと思ってて。世界大会で金メダルを取るってことがすごいことだってのは頭では理解してるつもりやったけど、でもその重みを実感するのは2016年を終えてからなんじゃないかなって思ってた。

それで迎えた2016年の世界大会では、結果的にメダルすら取れなくて。しかも正直、大会中も終わってからも手応えを感じなかったんよね。「なんか世界との差が開いちゃったんやな」って思って、2016年の世界大会後に2012年の金メダルの重みを実感した気がしてる。個人的には怪我もあって、痛みを抱えたままプレーしてて身体的にもきつかった上に、結果も出なくて、正直この時に「アルティメットやめてもいいかな」くらいの気持ちで本当にしんどかった。大会前にはチームとしても、個人としても結構頑張った感覚やったけど、それでも全然届かなかったな。

 

2016年 世界大会での稲村選手

2016年 世界大会での稲村選手。この大会でウィメン部門は4位と、惜しくもメダルに手が届かなかった。

 

「チームが苦しい時に軸になれる存在でありたい」

―日本代表として3度、クラブチームでも2度の世界大会を経験されてきたと思いますが、今一番大きな目標として見据えているのはどこですか?
一番は2020年の世界大会。やっぱり2012年、2016年と経験してきて、次という気持ち。2016年の世界大会、2017年にはワールドゲームズ、2018年には壱でクラブ世界大会に出場させてもらって、正直世界との差が開いているなっていう感覚が強くて。それぞれ感じていることは違うかもしれないけど、個人的には「このままやったらあかんな」って感覚が強いかな。

 

―今回のAOUGCについてはどうですか?
しっかり勝って、結果を残したいっていうのが今回のチームに対する想いかな。若い子たちが多くて、来年やその次には中堅くらいになっていくような世代で、一番いい年齢層やと思う。爆発力があるし、楽しみ。一方で、今回はアジアという規模やけど、自分が今感じている世界との差を埋めていくためにもまずはアジアで結果を残さないと話にならへんと思ってる。

 

―キャプテンとしては何か意識していることはありますか?
代表のキャプテンをやるのは今回初めてやけど、代表のキャプテンやからといって特別何かをやらないといけない感覚はないかな。意識としては、どちらかというと自分は言葉数が多いタイプじゃないし、言葉で伝えるのが得意なタイプではない。だから、プレーで引っ張っていけたらなって思うし、その方が自分にあってるかなって思う。

 

―プレーで引っ張るっていうと具体的にはどんなことを心がけているんですか?
特別感を持ってプレーしているわけではないけど、どうしても試合を重ねていく中で、接戦の場面とか、劣勢で苦しい状況や場面が出てくるから、チームが苦しい時に軸になれるような存在でありたいとは思っているかな。

正直、ずっと若手のつもりでやってきたけど、年齢も年齢。気づけばこんな年って感覚。自分がどこまでできるかわからんけど、世界との差が広がってしまっているって感じている中で、個の力も必要かもって思うから、そういう部分も含めて、どうしていくのか、日本代表やクラブチームでの活動のなかで見つけていきたいと思ってる。

 

―なるほど。大会前に貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそありがとうございました!

 

 

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