
「僕らが楽しいと思える場をつくるだけ」——とかさんが東北でフライングディスクを普及し続ける理由
はじめに
筆者は東北大学ALBATROSS出身で、アルティメット東北リーグを通して、たくさんの仲間に囲まれ、非常に楽しい時間を過ごすことができました。
「FDTを読む皆さんにも、東北での活動や、活動する人の想いを知ってほしい」
そんな想いから、今回はアルティメット不毛の地であった東北に種を蒔き続けて、たくさんの笑顔の花を咲かせているアルティメット東北リーグ実行委員会会長の渡部貴人さん(とかさん)にお話を伺いました。
Profile
アルティメット東北リーグ実行委員会 会長|福島県フライングディスク協会 会長|ディスクヴィレッジ 渡部農園7代目|株式会社クラブジュニア 東北Depot
渡部 貴人(通称:とか)
Takahito Watanabe
1972年3月28日生まれ(取材当時:46歳)
上智大学FREAKS 出身
ディスクヴィレッジ/ビアーズ 所属
日本フライングディスク協会公認インストラクター1級
1991年
・全日本アルティメット選手権大会 準優勝
1992年
・全日本アルティメット選手権大会 優勝
・世界アルティメット選手権大会 メン部門日本代表 3位
・アルティメット全日本王座決定戦 準優勝
1993年
・世界アルティメットクラブチーム選手権大会 メン部門 出場
1996年
・世界アルティメット選手権大会 メン部門日本代表 4位
2008年
・世界アルティメット選手権大会 マスターメン部門日本代表 6位
2016年
・世界アルティメット選手権大会 マスターメン部門日本代表 5位
2018年
・世界マスターズアルティメットクラブチーム選手権大会 グランドマスター部門 出場 スコアボードリーダー(※非公式)
Interview
ーアルティメットと出会ったきっかけは何でしたか?
天才物理学者でプロゴルファーの主人公が活躍する漫画『Drタイフーン』に憧れて、上智大学理工学部物理学科に入学し、ゴルフ部に入部しました。だけれども、試合に負けた新入生は坊主を強制されるという当時の理不尽なルールが信じられなくて、すぐに退部しました。
「せっかく東京に来たのに、坊主なんてやってられるか!」って。
それで暇でぶらぶらしていたら、クラスメートが「見においでよ」って、彼の入っているサークルに誘ってくれたんです。そこでアルティメットの存在を初めて知りました。
「よかったらここに名前を書いてよ」って、優しい先輩に指示されて、深く考えずに“渡部貴人”と書いたらそれが入部届でした。まあ騙されたようなものでしたね(笑)
―そうだったんですね。入部後はどのように活動していましたか?
入部してしばらくは、練習に行かずにご無沙汰していました。けれども、11月だったかな、全日本選手権の決勝に進出していたAチームの先輩たちがダイビングブロックやロングシュートといったもの凄いプレーを連発していたのを見て、鳥肌が立ったんです。「これだ、この競技だ」とスイッチが入って、そこから猛練習の日々を送りました。
その後は学生チームで日本一となり、A代表やクラブチームを含め、数々の世界大会に出場させていただけました。そして、大学を卒業した後は、故郷である福島県下郷町に戻りました。
(とかさんが感じたり実践してきた、チームビルディングやパフォーマンスに関する経験や世界大会でのエピソードは別の記事にまとめたいと思います。お楽しみに!)

腰の高さまで雪が積もっても、ディスクゴルフを楽しむ。生粋のディスク愛好家。地元の公園にはディスクゴルフのコースがある。
―アルティメット東北リーグはどうして生まれたのでしょうか?
アルティメット東北リーグ(以下:東北リーグ)は、2005年に岩手県北上市で開催された全国スポーツレクリエーション祭がきっかけです。当時は全国から約80人の参加がありました。東北でのアルティメットの大会はまだ一切無くて、新鮮であり、参加者からも非常に好評でした。「こういう楽しいのを続けていきましょうよ」って。そんな声もあって、閉会式で「毎年アルティメットの大会を開催します!」と勢いだけで宣言してしまいました(笑)そして翌年2006年から東北リーグを開始することになったんです。
―今と比較すると80人は想像がつかないですね。
80人は地域の人やディスクゴルフプレイヤー、うちの家族も含めた人数です。最初は本当に大変でした。でも、そこから会津大学や仙台圏で徐々に普及が進んでいったんです。
初めは、レクリエーション感覚でのアルティメット人口を拡大すべく、始まった東北リーグ。レベルはお世辞にも高いと言えなかったけれど、楽しかったです。でも、いつからかな、参加者が増えてきて、大会開催数も増えてきて、真面目に取り組まないと勝てない風潮が出てきました。東北リーグのレベルが自然に上がったんです。それが2014年ぐらいだったと思います。もちろん、新歓フェスタや東北クリニックを開催したりと、レベルを上げようとした結果もあると思いますが。いつの間にか東北6県各地にアルティメットの大学チームが出来上がって。もうあっという間でした。
―当時、運営者側の苦労とか、もどかしさってありましたか?
いや、あまりなかったです。元々東北リーグをどういうイメージで作ったかというと…世界大会に行ったときに感じたものを表現したかったんです。それが何かと言うと…芝生、青空、音楽、その3つ。その中心にあるのが、“笑顔”というか、その場にいる全員が楽しそうな雰囲気で。みんながYeeeeeah!!Fooooo!!みたいな(笑)その雰囲気をまず作ろうとしました。
だから、スタッフのみんなには、「まず、僕たちが楽しもう」と言っています。ギスギスするのではなく、楽しくやりましょうと。そこがはじまりだと思うので。苦労とか考えずに、とにかく楽しむことだけ意識しました。
―今や東北リーグは、年間延べ2,000人もの参加者を集めるようになりました。近年の大きな変化は何ですか?
東北リーグのビジョンにも掲げている、東北っ子から日本代表を輩出というのが実現したことです。2014年のU19、2015年のU23、2016年のA代表とU20、2018年のU24とU20。東北から日本代表が選出されたのは本当に喜ばしく、そして頼もしく感じました。

2018年U24メン部門日本代表に選出された会津大学DualBootの選手

2018年U24ミックス部門日本代表に選出された秋田大学BLITZの選手たち
東北のアルティメット人口を拡大すべく始まったアルティメット東北リーグも今、分岐点にあります。これまでの東北リーグは、たくさんの人が参加しやすいように間口を広くしようと考え、これまでに無い”東北リーグスタイル※”のミックス部門のみでの開催でした。
(※基本的にウィメンの数は2または3人。ウィメンの数が足りない場合、ウィメンが多いチームのウィメンが得点に絡んだ場合、その得点は2点となる特設ルール。)
でも、東北のアルティメット人口が増えたことで「選択肢が少ない」という懸念事項も浮かんできました。そういった懸念から、2018年からメン・ウィメン・ミックスの3部門制に移行。ミックス部門は”東北リーグスタイル”のミックス形式ではなく公式のミックス形式に移行してみようと試みました。

2018年10月に開催されたみやぎ大会。参加者も400名を超えるように
―東北といえば、2011年に発生した東日本大震災。アルティメット東北リーグは大震災とどう向き合ったのでしょうか?
僕たちがションボリしていては意味がないから、むしろいつもと同じように楽しもう、楽しい場をつくろうという気概でした。そんな中、クラブジュニアの吉田社長やカナダのトロント協会からディスクが送られてきたり、全国各地のディスクプレイヤーからメッセージや義援金をいただいたりしました。本当に有難かったです。その援助を活用してテントを作りました。

全国各地のディスクプレイヤーから寄せられた激励のメッセージ

集まった義援金をもとに東北リーグのテントを作成
色んな人のサポートがあったからやれたんだろうな、と今は思います。でも、当時の心境としてはいつもと一緒にということを意識していました。いつもと同じような朝を迎えて、いつもと同じようにプレイヤーを迎えて、東北リーグは今もこれからもそうあるべきだろうと思っています。
―これからの東北リーグについて、お聞かせください。
出来るだけたくさんの人に来てもらいたい、関わってもらいたいと思います。東北リーグに関わってくれた人が「楽しかったなぁ、また次も来たいなぁ」って思ってもらえるようにしていきたいです。
展望としては、ジュニア、マスター、グラウンドマスター部門の創設を見据えています。僕らが一番気にかけないといけないのは、これからアルティメットを始めようとしている人たちと、これまでプレーしていたけど、何らかの都合で離れてしまった人たちです。その人たちに対して、僕たちはアプローチしていきたいです。

Jヴィレッジで開催されたスポーツフェスタでの1コマ。福島県フライングディスク協会の会長としても普及活動に取り組む。
上手い子たちはもう自分自身で方向性を決めて上手くなっていくような段階になってきています。だからこそ、そうじゃない人たちに対してどれだけアプローチしていけるかが僕たちの役割だと思っています。
大事なことは、僕を含め東北リーグに関わってくれる人たちがそういう気持ちになることかなと思います。どうしても上のカテゴリ、日本代表に目がいってしまいますが。そうじゃない人たちにアルティメットの楽しさを伝えていくことが大切だと思います。一番のミッションは仲間を増やすことなのではないかと。そういう思いで取り組んでいきたいです。
―ありがとうございました!
ありがとうございました!

常に楽しむことを忘れないとかさん。あたたかい雰囲気が感じられる。
次回は東北リーグでプレイヤーとしても運営者としても活躍する2016年U20日本代表の仲川湧聖さんと、2018年U24日本代表の伊藤剣大さんにお話を伺います。

ディスクヴィレッジでの一枚。前列右一番目がとかさん。前列左一番目が筆者。ディスクヴィレッジでは共にアルティメットをする仲間を募集しています。「とか塾」の個人レッスンも受けられます。とかさんが作った福島県下郷町産のお米もいただきました。(超美味しい!)
取材を終えて
今回初めて記事を作成しました。ライターって文章を書くだけじゃなくて、インタビューや編集を通して知らない世界を覗き見ることができることが非常に楽しいな、と思いました。Flying Disc Timesの運営・記事執筆にご興味がある方はこちらをご覧ください。


Flying Disc Times ライター
早稲田大学スポーツ科学研究科スポーツビジネス研究領域|東北大学ALBATROSS出身|SAMURAIおよびUNKNOWN所属|#4|JUNTPユース普及プロジェクト|法政大学Foxys!!コーチ|大学院では、アルティメットプレーヤーのスポーツ観、チーム・ビルディング、モチベーション・マネジメントなど、アルティメットに関わる幅広いテーマを扱っています。FDTの発信を通して、同じ願いを持つ人たちが集うコミュニティを生み出していきたいです。